エッセイ「心の残像」ESSAY

プリマ開発者中谷光伸コラム

第四夜 – 道 –

昨晩こんな夢を見ました。 僕の前に道がある。どこまでも続く一本の道がある。どこに行くかは分からない。他に道はないので、僕はこの道を歩んでいる。朝は背に日を受け、夕は沈み行く陽に向かうので、どうやら西に向かっているようだ。道沿いに住む人は皆、親切だった。空腹になれば、食を与えてくれ、日が暮れれば、暖かい家の中に迎えてくれる。朝になれば、気を付けてと言って、やさしく僕を送り出してくれる。道はどこまでも真直ぐに続き、起伏がない。来る日も来る日も僕はこの道を歩み続けている。今日もまた、僕はこの道を歩んでいる。そして、その日、僕は一人の初老の男に出会った。  男は道端の石に腰掛けていた。くたびれた紺色の背広を着て、黒い革靴を履いていた。ネクタイを締めた白いシャツの襟は黄ばんでいた。髪は乱れ、伸びた髭が顔の半分を覆っている。その男が僕に話しかけてきた。 「あなたは、何処に行くのですか」と。 「何処へ行くのか分かりません」と、僕が言うと、 「どうしてこの道を行くのですか」と、聞いてくる。 「この道の他に道はありませんから」と、答えると、男は、 「この道は長いですから、しばらくここで休んでいきなさい」と言う。それで、僕は男の傍らに腰を下ろした。男はひとり言のように言う。 「私もあなたと同じようにこの道を歩んで、ここまで来ました。この道は楽な道です。きれいに舗装されているし、坂もない、道沿いの人は皆、親切だし、食うに困ることもない。でも、ここまで来てどうしようもなく疲れましてね、少し休もうと思って、石の上に腰掛けたら、もう動けなくなりました。それからは、ずっとここにいるのです」と。僕は黙って男の話を聞いていた。けれども、長く休んでいる訳にもいかず、僕は来た道を先に進もうと、その場から立ち上がった。そして、辺りを見渡すと、僕の周りには数え切れないほどの道があった。