エッセイ「心の残像」ESSAY

プリマ開発者中谷光伸コラム

第十夜 – 嵐 –

昨晩こんな夢を見ました。 灰色の雲が暗く空を覆い、風が強く、激しく雨が降っている。時折、雷鳴が鋭く耳に響く。風雨から身を隠すものが何もない荒涼とした原野を僕は重たい荷を背負い歩いている。泥濘が僕の足取りを重くし、冷たい雨が顔を打つ。向かう先、微かに僕の目指す塔が見える。雷鳴が轟く度に、その丸みを帯びた輪郭が空を走る雷光に白く浮かび上がる。それは仏塔のようだ。塔に着けば、背中の荷と引き換えに僕はそこに住む老師からマントラを授けられる。そのマントラを唱えれば、僕は悟り、あらゆる苦悩から開放される。そう信じて、僕は体を斜にして風に向かい、雨に打たれながら嵐の中を歩いている。 幾日も休むことなく、空腹に耐えながら、僕は嵐の中を塔に向かった。けれども、どれだけ先に進んでも、塔は少しも僕に近づかない。向かう先、塔は遠く、遥か遠方に見えるままである。嵐はまるで治まる気配を見せず、風は強く、大粒の雨が激しく降り続いていた。背に負った荷は石のように重く、その紐が肩に食い込む。冷たい雨が僕から体力を奪う。踏み出す一歩に息が詰まり、寒さに体の震えが止まらない。それでも、僕は力を振り絞り、歩き続けていたが、歩めど歩めど、少しも近づくことがない塔との絶望的な距離感が僕から最後の気力を奪った。徐々に薄れ行く意識の中で、僕はマントラも、悟りも、どうでもよくなった。精魂が尽き果て、僕はもう一歩も歩けず、その場に倒れた。それで、倒れ際にふと後ろを振り返ったら、そこは雲ひとつない晴天だった。