エッセイ「心の残像」ESSAY

プリマ開発者中谷光伸コラム

第八夜 – 白い国 –

昨晩こんな夢を見ました。 星空の下、草原に張られた陣幕の中で焚火が燃えている。幕の隙間から冷たい風が吹き込む。炎が振れ、火が音をたてる。自分は陣幕の中にいて、支那の衣に身を包み、皮の帯に太い刀を吊るしている。懐に一枚の地図があった。戦に勝つ度に征服した国を朱に染めた大陸の地図である。この戦が最後の戦であった。自分は机の上にその地図を広げ、朱の壺に筆を浸け、この戦で征服した国を朱に染めた。それから、もう一度、地図を見た。自分は大陸を制覇したのだ。地図にあるすべての国が朱に染められた筈であった。けれども、自分の母国だけは地図の上で最後まで白く残っていた。その国も朱に染めようと、自分は筆を取り直した。  その時である。突然、陣幕が激しく揺れた。はっとして振り返れば、家臣の一人が刀を振りかざして自分に襲いかかって来た。不意を襲われ、一刀のもとに自分の首が飛んで地図の上に落ちた。地図の上で最後まで白く残っていた国が首から流れる血で朱に染まった。