エッセイ「心の残像」ESSAY

プリマ開発者中谷光伸コラム

第五夜 – 強迫 –

昨晩こんな夢を見ました。 一から百までの数を数えなければならないと、自分で思い込んで僕は数え始める。 「一、二、三、四、五・・・」最初は楽しく数えている。初めて数を覚えた子供のように指を折りながら僕は楽しく数えている。 「十一、十二、十三・・・」リズムをつけて僕は数えている。 「二十一、二十二、二十三・・・」歌でも歌うように僕は数えている。 「三十一、三十二、三十三・・・」元気よく僕は数えている。 「四十一、四十二、四十三・・・」大きな声で数えていると、どうして百まで数えているのか疑問に思えてきた。数える声が少し小さくなった。 「五十一、五十二、五十三・・・」数えるのが面倒になった。けれども、百まで数えなければならないと思い僕は数えている。 「六十一、六十二、六十三・・・」何だか、数えるのが怖くなってきた。数えるのを止めようとしたが、止められない。仕方なく、ゆっくりと数えている。 「七十一、七十二、七十三・・・」心臓の鼓動が早くなり、冷汗が流れる。数える度に恐怖が増す。数えるのを止めようと両手を強く口に当てたが、勝手に口が動く。 「八十一、八十二、八十三・・・」悪寒で体が震える。口からは唾液が垂れ、獣のように僕は数を数えている。恐怖で気が狂いそうだ。 「九十一、九十二、九十三・・・」舌が縺れ、息が吸えない。それでも、数を数える声が腹の底から圧し上がる。僕は爪で頬を掻き毟る。 「九十六、九十七、九十八・・・」もう吐く息はない。口から血が溢れ、胃が喉元まで上がってきた。そして、百まで数え切れずに僕は気を失い、夢から覚めた。 夢から覚めた僕はまた数え始める。 「一、二、三、四・・・」最初は楽しく数えている。