コラムCOLUMUN

プリマ開発者中谷光伸コラム

第9章 プリマの最高級物件、プリマ矢向壱番館

 2012年の夏、東京にある税理士事務所より、一人の女性を紹介されました。横浜市鶴見区に土地を持つ資産家S様です。S様はJR南武線矢向駅から徒歩5分の駐車場として貸している土地にアパートを建てる計画がありました。複数のハウスメーカーから新築アパートの計画を受けていたのですが、どれも建物のデザインが見るからにアパートで、S様のお気に召さず、懇意の税理士に相談されたところ、私が紹介されました。担当の女性税理士と一緒にプリマ新横浜のモデルルームを見学に来られたS様は、アパートとは思えぬプリマの外観に感動されます。オートロックの内廊下、内階段、吹抜のある開放的な間取り、無垢材を多用したインテリア、ハウスメーカーのアパートとは全く違うプリマに満足され、その場で計画の依頼を頂きました。ご要望は特になく、モデルルームのあるプリマ新横浜五六番館の1K16戸で建設可能なら、外観も間取りもそのままで良いとのことでした。

 後日、敷地を測量し、22㎡の標準プランで16戸を配置しても、敷地にはまだ余裕がありました。当時、プリマはフランチャイズの加盟会社も増え、年間30棟ほどの受注があったのですが、そのほとんどがプリマ参番館の標準プランでの受注でした。確かに標準プランはレンタブル比も高く、戸あたり価格も割安で、とても良くできたプランなのですが、そればかりを受注していると、何か新しいことをしたくなります。S様と出会ったのは、ちょうど私が新規プランを開発しようと思っていた時期でした。

 受注を順調に伸ばしていたプリマなのですが、入居者のアンケートで不満なところもありました。その多くはロフトへの梯子が急で危ないということ、ロフト以外にも収納がもっとあれば良いというものでした。確かにロフト梯子は、両手が使えず、荷物の上げ下げが大変です。使わない時は、梯子を壁に立て掛け、部屋を広く使えるのですが、ロフトを寝室に使っている入居者は、そんなことはしません。ロフトへの昇降に階段を考えたのですが、常設階段は建築基準法上、採用が困難でした。それで、京町屋にある箪笥階段を現代風にデザインし、オーダーキッチンのロータス社と収納階段家具LOFTYを共同開発しました。収納部分にはクロークと引き出し、棚が付き、安全性だけでなく、収納も増える一石二鳥の商品です。家具ですので、建築基準法の制約も受けません。このLOFTYがオプションで、プリマへの採用が増えていました。だだ、22㎡の標準プランにLOFTYを設置すればリビング部分がやや狭くなります。LOFTYの設置を前提にすれば、ロフトを除いた専有面積は25㎡が理想です。 ロフト梯子への不満の他に、入居者からの要望が多かったのが、宅配ボックスの設置です。残業が多く、平日は夜九時までに家に帰れない入居者も多く、宅配ボックスがあれば、もっと便利に通販が利用できます。また、オートロックにカメラを付けて欲しいとの要望もありました。新規プランではこれら入居者の声を反映し、プリマをより安全で快適なアパートにする予定でした。それと、プリマは1棟8戸が標準プランですが、プリマの受注が増える状況下、1棟16戸の大型案件も増えていました。当初、1棟16戸のプリマは1棟8戸の標準プランを2セット連結して提案していたのですが、1棟なのに共用部が二つに分かれ、オートロックのある共用玄関も階段室も二か所必要でした。1棟16戸を前提とした新規のプランを市場が要求していたのです。

宅配ボックスを設置したプリマの玄関
宅配ボックスを設置したプリマの玄関

 新規プランは収納階段家具LOFTYを標準設置した専有面積25㎡、カメラ付きオートロック、宅配ボックスも標準採用、階段・廊下幅も広め、共用部にソファーが置けるロビースペースを設けました。ロビースペースからは中庭が見え、吹抜の空間が2階の廊下に通じています。アパート業界の常識では家賃に反映しない共用部には最低のコストしかかけません。ハウスメーカーでは今なお外廊下の鉄骨階段、共用部不要の重層長屋があたりまえです。新開発の企画はそんなアパート業界の常識を覆す画期的なプランになりました。外観は、従来のヨーロッパのデザインと異なり、明治の洋館を思わせるデザインです。建物間口が広くなり、正面デザインが間延びするので、建物中心にある共用玄関の入口に下屋を設けました。下屋を受ける2本の柱を門柱にし、その間に両開きの門扉を付けました。とてもアパートとは思えぬ貴賓感のある外観で、商品名はプリマグランデとしました。

アパートとは思えない、ゆとりある共用部
アパートとは思えない、ゆとりある共用部

 S様には新横浜のモデルで実際に見て頂いたプリマの標準プランの連棟建て16戸の計画と新開発のプリマグランデ16戸のプランを提出しました。利回りは標準プランの方が高かったのですが、S様は迷うことなく、プリマグランデ16戸の計画で事業決定して頂きました。プリマグランデは、プリマ事業を始めて5年、その間の経験、学び、そして、いい建物を造りたいという私の思い、そのすべてを注ぎ込んだ建物です。賃貸住宅としてこれ以上の建物を企画する自信は私にはありません。プリマ最高級物件、プリマ矢向壱番館は2013年3月に竣工、4月から16人の女性の新しい生活が始まりました。

プリマ矢向壱番館 洋館デザインの外観
プリマ矢向壱番館 洋館デザインの外観
プリマ矢向壱番館 モデルルーム
プリマ矢向壱番館 モデルルーム
プリマ矢向壱番館 収納階段LOFTY
プリマ矢向壱番館 収納階段LOFTY
プリマ矢向壱番館 共用部にあるロビースペース
プリマ矢向壱番館 共用部にあるロビースペース