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プリマ開発者中谷光伸コラム

第8章 アパート市場に潜むビジネスチャンス

1.アテブツとキメブツ

 あなたがアパート探しに賃貸不動産会社の店舗に入り、椅子に腰掛け、場所、間取り、家賃等の希望を言えば、接客カウンター越しに店員さんが入居者募集中の物件資料を幾つも見せてくれます。もしあなたが、本気でアパートを探しているのであれば、あなたはあなたの希望に近い物件を3物件程度、現地まで案内して貰えます。

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 最初に案内される物件はアテブツです。家賃が安いけれども、誰も住みたくないような古くてオンボロの物件。次に案内されるのは、築年数が浅く、見た目は多少マシだけれども、家賃に割高感のある物件、これもまたアテブツです。そしてあなたがアパート探しに失望したところで、最後に案内されるのが不動産屋さんの決めたい物件、あなたの希望に最も近いと思われる本命のキメブツなのです。店員さんは最初からキメブツを案内すればいいのに、何故にわざわざその前にアテブツを2物件も案内するかと言えば、最初からキメブツを案内すれば、キメブツがキメブツにならないからです。キメブツと言っても、その物件だけを見れば、決して良質な物件ではないのです。キメブツはアテブツとの比較において初めてキメブツとなるのです。

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 アテブツとキメブツ、これは希望を持ってアパートを探す顧客にアパートの現実を把握させ、入居するアパートを決めて貰う賃貸不動産業界の常套手段です。賃貸物件には入居者が積極的にここに住みたいと思うような魅力的な物件は稀にしかありません。入居者は妥協しなくては、自分の住む物件を決めらないのです。他の物件に比べればまだマシ、一般的に現状の賃貸アパート市場はその入居者に負の選択を強いる、他の業界から見れば信じられない程に未熟な市場なのです。

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2.事業としてのアパート経営

 人口の減少、景気の低迷、空室率の増加と家賃の下落、賃貸住宅市場を取り巻く環境は厳しさを増すばかりです。供給過多により、都市近郊においても、一年以上未入居の新築物件が珍しくなくなりました。賃貸住宅は既に、貸し手市場から借り手市場へと変遷し、入居者が自分の住むアパートを数ある物件の中からより良い物件を選択できる時代に突入しています。建てれば、入る時代は終わったのです。

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 それでも、自分自身でもアパート事業を営み、アパート建築を請け負う会社にいる私には信じられないことなのですが、建築を頼む側の大家の意識も、建てる側のハウスメーカーの意識も何ら変わることがありません。従来と何ら代わり映えしないプレハブアパートが今でも続々と建てられているのです。アパート経営を単に節税の手段ではなく、事業として考えれば、既に有り余り、市場での競争力を失ったものを、今更これ以上建てることに一体、何の意味があるのでしょうか、大家にとって、リスクばかりが大きく、収益など望みようがありません。

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 アパート経営は事業です。それも、何千万円、何億円の金融機関からの借入れを背負い、次の世代へ引き継ぐ長期の事業なのです。節税を理由に、金融機関や税理士、農協に勧められ、紹介されたハウスメーカーに任せて、気軽に始められるような事業ではありません。事業はそれを始める前に、より多くの情報を収集し、その情報を分析、よく考え、そして慎重に計画を立て、大胆に行動した人が成功するのです。情報と知の偏在が富の偏在を生み出します。自分自身で何の勉強もせずに、人任せにした事業に安定した収益があろうはずがありません。大手だから安心ですよ、家賃保証制度があるから心配いりませんよ、すべて任せて下さいと言うハウスメーカーの甘い誘いに乗せられ、詳しい契約内容も確認せずに契約し、時代錯誤のアパートを建て、できた部屋が埋まらず、保証すると言われた家賃も数年後には大幅に下げられ、最終的には借りたローンが払え切れず、こんなはずじゃなかったと後から悔やんでも遅いのです。

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 アパート経営を事業として考えれば、そもそも家賃保証などあり得ません。もしうまくいかなかったら、誰かが保証してくれる。どんな事業であれ、経営者がそんな甘い考えで始めた事業が成功するはずがないからです。自分が損をしてまで、誰が他人の損失を何十年も補填しますか、そんなことはあり得ないことなのです。賃貸住宅市場に甘えの構造が通用する時代は既に終わったのです。すべては自己責任、騙された人が悪いのです。

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3.アパート市場に潜むビジネスチャン

 前章で私は、アパート経営なんて、嫌なことばかりで、儲かる商売じゃないですよ、これから日本の人口はどんどん減っていくのに、今更、大家なんかになってどうするの?と、今後のアパート経営に非常に消極的な見解を述べています。空室率の上昇と家賃滞納の増加、家賃の下落と入居者モラルの低下、強まる消費者保護の風潮、アパート市場の現状を概観すれば、確かにそうなのです。新築であれ、中古であれ、入居者に負の選択しかされない従来の物件での賃貸経営に明るい未来があろうはずがありません。

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 しかしながら、数ばかりが足り、その質に劣る現状の賃貸住宅市場において、入居者がこのアパートに住みたい、この部屋に住みたいと心から思える物件が現れれば、どうなるでしょうか?その物件はたちまち市場の注目を浴び、入居者に積極的に選択されます。この選択は従来のアパート市場における、他に比べればまだマシという負の選択ではありません。ここに住みたいという積極的な選択なのです。選ばれる物件のオーナーは入居者から所定の敷金と礼金、家賃を受け取れます。たとえ退居があっても、空室や家賃の下落を心配する必要がありません。そればかりか、複数の入居希望者の中から、より良質な入居者を選ぶことも可能となります。入居者とのトラブルや家賃滞納に苦しむこともないのです。

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 現状のアパート経営に苦しんでいる大家さんにとってはまるで夢のような話ですが、決して難しいことではありません。お客様である入居者と商品である建物にもっと関心を払い、ハウスメーカーの言いなりにならず、顧客満足度の高い、現状の賃貸市場にないデザインが優れ、快適な物件を建てればいいのです。アパートだからこの程度でいいと割り切るのではなく、完成すれば、自分自身もそこに住みたいと思えるような物件を建てればいいのです。積極的に選ばれる物件を建て、そこに住む入居者に喜びと満足を与えればいいのです。アパート経営を事業として認識し、事業として当たり前のことを当たり前にするだけでいいのです。

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 今後のアパート経営において不安材料はいくらでもあります。一見すれば、極めて将来性に乏しい賃貸住宅市場なのですが、消費者の視点が欠落し、今なお工場生産の箱形アパートしか建てられない大手ハウスメーカーの寡占状態にあるこの市場は、現状への問題意識、消費者のニーズを感じ取れる感性、そして多少の経営感覚を持った新規参入者にとっては、実に大きなビジネスチャンスが潜んでいる今の日本に残った数少ない未開拓市場である、私にはそう思えてなりません。

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プリマ矢向弐番館
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